実家には柿の木が植わっていた。
渋柿だったので食べることは無かったけど、その木に登るのが好きだった。
女の子なのにと近所のおばちゃん連中には眉を顰められましたが、うちの母は『柿の木から落ちると縁起でもないことが起きる』と斜め上のお小言。
あれは遠回しに木に登るなって事だったんだろうけれど、スカートで木に登るようなアホな娘にわかる訳も無く(笑)
落ちなきゃいいんだな。と、解釈。
木登りにも飽き始めたころ、成長し腕の力で体を持ち上げることが難しくなったので、何ごとも無いうちに登ることも無くなった。
その柿の木はお隣の家の境にあって、よく隣のおばちゃんがうちに来る時にぶつくさ文句を言っていた。
虫が落ちるだの、枝を切ってくれなきゃ通りづらいだの。
隣のおばちゃんは父の父方のいとこで、何かっていうとうちの世話を焼きつつ小姑っぽい発言をしていた。(父と同じ歳で母より年下なのに)
母もけっこうな事を言われていたらしい。
でも、父はそれを表立って庇う人ではないので、隣のおばちゃんも好き勝手言っていた。
せめてもの抵抗がどんなに文句を言われても柿の木を切らなかったこと。
母もそうだけど、父も反抗の仕方も斜め上で遠回りすぎる。
両親ともに苦手なおばちゃんではあったけれど、私はハキハキものを言うおばちゃんが嫌いじゃなかった。
里帰りした時も持参したお土産以上のお土産を持たせてくれるような太っ腹な人。
数年前に隣のおばちゃんは癌でこの世を去った。
父も母も淋しいって言っていた。
それから程なく、柿の木は枯れ始め何かあると危ないからと切られてしまった。
今はもう、実家には柿の木は無い。
通勤途中で見つけた柿の木。
木登りが出来た軽やかな自分と世話好きな隣のおばちゃんのことを懐かしく思い出す。