風日晴和

毎日楽しく忙しく

ジャンヌダルクはいらない

あの子をテレビで見かけ始めた頃、金髪で頬っぺたがピンクで優しいしゃべり方をしていて、『ヘアスプレー』という映画のリンクが好きで不思議なお洋服を着ていた。

大好きな恋人ときゃぴきゃぴ笑っていてイチャイチャして、なんか楽しそう。

そして、いまの若者はそんな二人が好きなんだ。面白い時代だなと思ってみていた。

 

ほどなく、2人は結婚してお子さんが生まれ、恋人同士のきゃぴきゃぴイチャイチャから、ちょっとだけ落ち着いて、でも、ニコニコと幸せそうだった。

あの子たちはテレビに登場することが減り、主戦場を替えたのか、わたしの目に触れることはほとんどなくなった。

 

数年後のある日。

ディズニーランドの『スティッチエンカウンター』に並んでいたら、お子さんを連れたあの子がやってきた。

ママは後からのんびり歩いてくる。お子さんはパパに抱っこされ、高い高いをせがみ、空を飛ぶような高い高いをしてもらっていた。

その時、『ああ、そうか、ちゃんとパパなんだな。パパなんだね』とちょっとだけホッとしたのを覚えている。

幸せな幸せな3人家族の風景。

テレビに出ているあの子は『素敵なパパ』枠で、多くの視聴者はフェミニンな子でも結婚して子供ができたらちゃんとするんだと安心したと思う。

女の子のような姿で、甘えたようなしゃべり方で、柔らかい物腰で、恋人ったってビジネス恋人だろうと思っていたけれど、ちゃんと男じゃないか、パパになってるじゃないか。しっかりしてるじゃないか。普通じゃないか。と。

それが結局その『普通』「ちゃんと」があの子を追い詰めてしまったんだろう。

 

それから後。

あの子は『夫』とか『パパ』というカテゴリーに属することが苦痛になり離婚した。

妻を愛している。

お子さんを愛している。

でも、『夫』としてでなく、『パパ』としてでなく、『本当の自分』で愛したいと。

 

それから後のあの子を、ごくごくたまにネットニュースで見かけるくらいだった。

そのたびに、美しくなっていく。

もともと綺麗なお顔立ちなので、気合を入れればあっという間に美人さん。

でも、これが本当にしたいコトだったのか?と不思議に思ってた。

 

すごく頑張ったんだと思う。

『自分らしく生きること』に。

マイノリティの理解を深めてもらおうと旗を振り、先頭に立って。

たくさんのひどい言葉も受けただろうし、目に見えないキズをたくさん負ったでしょう。

その場所に行けば、理解してくれている人が増えるかもしれない、同じような悩みを抱えている人を救えるかもしれない、でも、それ以上に自分とは違う考えを持つ人を蔑み憎む人たちの標的になってしまう。

 

 

金髪で頬っぺたがピンクで優しいしゃべり方をして、大好きな恋人に甘えていた頃。

心にどんな葛藤をもって笑ってたのか。

結婚して、父親になって、『新しい父親像』を求められていた頃。

心にどんな葛藤をもってコメントしていたのか。

『夫』からも『パパ』からも離れて、『本当の自分』を求めた頃。

心にどんな葛藤をもって走り始めたのか。

 

いまとなってはわからないけれど。

人から求められる自分自分がなりたい自分本当の自分

それがぴったりマッチしている人なんてそうそういないんだよ。

みんなどこかでずれを感じ、居心地悪く生きてるんだ。

 

本当の自分なんて、探しに行かなくてよかったのに。

青い鳥は結局家の中にいることは、みんな知ってるよ。

言わんこっちゃない、迷子になって帰れなくなってしまったじゃない。

 

 

あの日に見た幸せな父と子の姿が、本当に美しくて。

思い出すと、ほんのちょっぴり涙がでる。